つかこうへいを読む旅 #9 『売春捜査官』(つかこうへい著)

紹介:広山詞葉 聞き手:宮原奨伍

宮原奨伍(以下、宮原):それでは、「つかこうへいを読む旅」、今回が最終回になりますね。

広山詞葉(以下、広山):そうですね。あっという間ですね。

宮原:今回紹介していただくのは何ですか?

広山:『売春捜査官』です!

宮原:はい。今日紹介してもらうんですけれども、この本は戯曲としてあって、実際にご覧になった方も多い作品なんじゃないかなと思います。

広山:『売春捜査官』は、我々が今回二本立てとしてやる、『熱海殺人事件』と『売春捜査官』のうちの一本の『売春捜査官』ですね。

宮原:なかなか年季の入った本ですね。こんなボロボロの。いつ読んだんですか?

広山:売ってないんですよね。なかなか。ちなみにこの本を買ったのは、一昨年の「新感覚・つかこうへい」を上演した時ですね。2024年の1月くらいに買ったのかな。オファーをいただいて、舞台で『売春捜査官』を観たことはあったんですけど、書籍として読んだことはなかったので、買いました。

宮原:そうなんですね。

広山:多分、『売春捜査官』って、『熱海殺人事件』と違って、書籍として出ているのはこれだけだと思います。『熱海殺人事件』は何本か出てますよね?

宮原:『熱海殺人事件』も、全体を紹介した『熱海殺人事件』と『新・熱海殺人事件』くらいなんじゃないですかね。

広山:『売春捜査官』の書籍も、私が調べる限り、販売されているのはこれだけです。

宮原:そうですよね。これはどういう本なんですか?

広山:1996年が初演で、初演も大分の「大分市つかこうへい劇団」の旗揚げ公演ですよね。そのために、つかさんが書いた本で、『熱海殺人事件』が演劇界で絶大な人気を誇って、じゃあもしその『熱海殺人事件』の木村伝兵衛部長が女性だったら、というお話ですね。

宮原:そうですね。

広山:なので『売春捜査官』って言ってはいるんですけど、本来は『熱海殺人事件』、サブタイトル『売春捜査官』みたいな位置づけですよね。もともとは。

宮原:はい。

広山:これはでも、やっぱり自分が女っていうのもあると思うんですけど、1990年代の女性が、まだそんなに社会でどんどん前に出ていく時代じゃない。今でこそ女性総理大臣が日本でも誕生しましたけど、1980年代に男女雇用機会均等法が出て、それからちょっと経って、でもまだまだ世の中、女がトップで働くには、という時代に書かれた本なんですよね。

宮原:女性が読むと、また僕たちとは違う視点になるんだろうなと思いますね。

広山:木村伝兵衛部長が警視庁捜査一課の部長として、男性陣を引き連れて捜査を進めていく大変さや踏ん張りどころを、私は今、自分が木村伝兵衛部長として読んでいるので、本当に心が動きます。涙も出ますし、それだけじゃなくて、とにかく踏ん張っている女性が描かれているな、というのが『売春捜査官』ですね。

宮原:これ、オープニングからちょっと違いますよね。

広山:違います。

宮原:読みますね。「あなたは私のかなり好みのタイプだと申し上げたのです。私もここまで露骨に告白した以上、行くところまで行くつもりです。」

「なんです、行くところまで行くつもりって」

「あなたも私に一目惚れした以上」

 「いつ一目惚れしたんです、私が」

 「毒を食らわば皿までという気持ちで、私にドーンとぶつかってきてください」

 全然違うんですね。

広山:全然違いますね。

宮原:「オラ来るとこ間違えたわ」「私、昔、男の方とキスをしたことがありまして……」って続いて、「途中でこいつ嘘キスをしている、私をもてあそんでいる分かりまして、カーっとなって、その男の舌を噛み切ってやったんです」って。全然違う(笑)。

広山:それ言うと、この本での部長は、一応バージンだって言ってますよね。

宮原:言ってますね。「バージンです!」のバージン。ああ、言ってたなって思いました。今回の私たちがやっている『売春捜査官』は、そうではないです。だから『売春捜査官』も、本当に何年もやられてきた演目ですからね。

広山:そうですね。

宮原:つかさんが口立てて、いろんなバージョンができているのが事実だと思います。

だからこの本を読むというのが、いちばん最初の初稿なんですね。一番最初に書かれたベースがこれだと思います。『売春捜査官』を観て、「原作は?」って思う人にはおすすめですね。

広山:おすすめできる本だと思います。そして締めは、もうお決まりの、帯にもなっている「今、義理と人情は女がやっております」。そこに行き着くまでのストーリーなんだなと、読んでいても思いますし、やっていても思います。

宮原:今、稽古としてはどうですか?

広山:12月1日から12月いっぱい、ずっと『売春捜査官』の稽古をしてきました。演出の逸見さんはつかさんの元で実際に口立てされながら『売春捜査官』の大山をずっとやっていた方なので、「ここはこういうこと」「ここはこういうこと」って、本だけだと読みきれない部分をたくさん教えてくれている感じがします。

宮原:なんでここ、こうなってるんだろうっていうところ、ありますよね。

広山:そうなんです。「なんでこれ出てきたんだろう」とかも、「つかさんがこう言ってたんだけど」って、つかさんはもうご存命じゃないけど、逸見さんを通して、今、つかさんの言葉を教わっている感覚があります。

宮原:特別な状況ですよね。

広山:本当にそう思います。そして『売春捜査官』と『熱海殺人事件』、両方やれているのは、すごく特別だなと思っています。

宮原:正直、この書籍自体は、僕はちゃんと読めてないんですよね。

広山:今回『売春捜査官』を上演するにあたって、どの『売春捜査官』がいいかって、4つか5つくらい読み合わせしましたよね。

宮原:しましたね。

広山:その中で、この要素をここに、この要素をここに、って作業を、逸見さんと一緒にやってきた。だから、すごくいい『売春捜査官』ができているんじゃないかなって思っています。

宮原:なんで戸田という人物が、ホモとして描かれているのか。しかも、在日韓国人の李大全という役も同じ人がやっている。

広山:そこも、この脚本から読み取れるところですよね。登場人物が4人って書いてあるので。

宮原:ここで初めて、つかさんが自分が在日韓国人で、こういう思いをしてきたっていうことを吐露した作品だとも言われていますよね。

広山:『熱海殺人事件』では、李大全は出てこないですもんね。

宮原:そうなんです。『売春捜査官』になって初めて出てくる。

広山:そういう意味でも、また違う深さで、つかこうへいを知れる作品だと思います。

宮原:読んだことのない本を紹介するのと、これだけ稽古してきた本を紹介するのとでは、やっぱり違いますよね(笑)。

広山:全然違いますね。

宮原:ざっくり、あらすじだけ紹介しておきますか?

広山:はい。『熱海殺人事件』の木村伝兵衛部長が女性だったら、という設定で、警視庁捜査一課部長・木村伝兵衛が、部下の戸田、かつて付き合っていた熊田刑事、そして熱海で起きた殺人事件の容疑者・大山金太郎と向き合いながら、なぜ大山金太郎が幼なじみであるアイ子を殺したのか、その真相を追っていく物語です。大枠は『熱海殺人事件』と同じですが、その過程やラストは全然違いますよね。

宮原:観る順番としては?

広山:私は『熱海』を観てから『売春』がおすすめですね。

宮原:僕は逆で、『売春』を観てから『熱海』の方が、今の人には入りやすい気がします。

広山:なるほど。どちらからでも大丈夫です!

宮原:そうですね。ということで、『売春捜査官』のご紹介でした。間もなく本番ですので、ぜひ劇場に足を運んで、この戯曲が立体的になった姿を観てください。そして、そのあとにこの本を読んでいただいてもいいかなと思います。ということで、「つかこうへいを読む旅」、最後は『売春捜査官』でした。

広山:ありがとうございました!

宮原:ありがとうございました!