
紹介:宮原奨伍 聞き手:広山詞葉
宮原奨伍(以下、宮原):今日ぼくがご紹介する本は、長谷川康夫さんの『つかこうへい正伝Ⅱ』です!以前ご紹介した『つかこうへい正伝』の続編になります。
広山詞葉(以下、広山):読む旅企画の第一回目が『つかこうへい正伝』でしたね。
宮原:この“Ⅱ”がすごく分厚いんですよ。
広山:もう辞書みたいですね、これは。
宮原:本当に(笑)。でも、読んでいくと、この厚みが必要だった理由がよくわかります。実は僕、前に一度長谷川さんにお会してお話する機会がありまして、そこでYouTubeのインタビュー出演のお願いをさせて頂いたんですね。
広山:はい。
宮原:そのときは丁寧に出演が出来ない旨を伝えて頂いたんですね。
広山:そうだったんですね。
宮原:でもその時は、まだこの『つかこうへい正伝Ⅱ』を読む前だったので、その理由が分かんない部分もあったんですね。でも、この本を読んで、その時に仰っていた言葉の意味が、やっと腑に落ちました。
広山:どんな内容だったんですか?
宮原:「もうやらないって決めてるから」的なことですね。
広山:その理由が書かれている。
宮原:そうですね。まずこれを、どれほどの時間と覚悟を費やして書いたんだろうと思いながら読みましたね。
広山:大変なことですよね、この量を書くというのは。
宮原:しかも、当初は“Ⅱ”を書く予定はなかったそうなんです。
広山:そうなんですね。
宮原:『つかこうへい正伝』刊行後につかさんが亡くなられて、その後、朝日新聞から連載のお話が来て、「まだ書き足りないことがあるんじゃないですか?」と言われて。
広山:この本は、それがきっかけで生まれたんですね。
宮原:そうです。まだ書ききれてはないものが、長谷川さんの中であったんでしょうね、きっと。
広山:これは1982年~1987年と表紙にも書かれていますね。
宮原:今回描かれているのは、1982年のつかこうへい事務所解散から、つかさんが再び演劇に戻っていく所が描かれていますね。
広山:小説を書かれていた時期ですね。
宮原:前作は“当時の演劇の空気”が強く伝わってくるものでしたが、今回は“つかこうへいという人間”がより深く見えてくるような感じかな。長谷川さんは「早稲田小劇場」出身で、「劇団暫(しばらく)」でつかさんと活動していた方で、そこには平田満さんや、のちに風間杜夫さんが関わっていく流れも描かれています。なによりつかさんの人柄を伝えたいという気持ちが随所に滲んでいるのが印象的ですね。
広山:人柄がよく伝わる本なんですね。
宮原:そう思います。しかもこの本は「つか芝居とは何だったのか」という問いから始まるんです。事務所解散までの葛藤や、テレビドラマ『つか版 忠臣蔵』を立ち上げたときの裏側のエピソードやなぜこの作品が映像に向いているのか、なども書かれていますね。
広山:えーおもしろい!テレビドラマの話も出て来るんですか?
宮原:出てきます。「映像に残るつか芝居」という章があって、詞葉さんが以前『青春かけおち篇』のシナリオを紹介してくれましたよね。
広山:はい、第4回で紹介させていただきました
宮原:まさにその時期の出来事がここに書かれていますよ。
広山:え!読みたい
宮原:ぜひ読んでみてください。大竹しのぶさんの話も出てきますよ。
広山:なにが書かれているんですか?
宮原:つか芝居といえば台本を使わず、口頭で台詞を伝える“口立て”と言われる演出技法が有名ですが、それをテレビドラマの現場にも持ち込んでいたこととか。
広山:え!ドラマも口立てで作ってたってことですか!?
宮原:そうみたいですね。
広山:すごーい!
宮原:すごいですよね。そのドラマの現場に、つかさんのもとで鍛えられた俳優たちを連れて行って、テレビ俳優の前で演じさせる、なんてこともあったらしくて。
広山:お手本みたいな感じですか?
宮原:そんな感じだと思いますね。
広山:大竹しのぶさんの前で?(笑)
宮原:そうですね。長谷川さんいわく「大竹さんには度肝抜かれた」と書いてありますし、「つかさんの顔が輝くのが分かった」ともありますね
広山:とても興味深いですね。
宮原:この本には、つかさんは実は寂しがり屋だったっていうこととか、長谷川康夫さん目線で俯瞰でも描いてくれているからこそ、つかさんの人柄が想像しやすいんだと思います。
広山:なるほど。少し話しが変わりますが。
宮原:はい
広山:最近、今回の出演者で“熱海殺人事件”の読み合わせをしたじゃないですか。
宮原:しましたね!
広山:その時に思ったんですけど、つかさんは、風間杜夫さんや平田満さんに台詞を当てたわけですよね。
宮原:そうですね。
広山:それは、その場の空気の中で生まれた台詞じゃないですか。それを文字にして、さらにその台詞を私たちが読んで演じるって、すごいナンセンスだなって感じてしまうことがあって。
宮原: それは僕も思いましたね。
広山:これは、つかさんが亡くなられた今、どうしたらいいんでしょうか?
宮原:でも一方で、岸田戯曲賞を受賞した作品として脚本を読み解く価値もあると思うんですよね。読む行為自体はもちろん否定しないし、ただ“台詞だけにフォーカスしてしまう”と本質からズレてしまう、という作品なんじゃないかなとも思うわけです。
広山:そうですね
宮原:でもこれについては、本当にずっと考えている部分ですね。
広山:ちなみにこの『つかこうへい正伝Ⅱ』は前作の『つかこうへい正伝』を読んでない人でも、楽しめますか?
宮原:楽しめると思いますね!つかこうへいさんについて書かれた本の中では一番新しい本ですね。
広山:2024年1月出版ですね。昨年ですね。
宮原:2年弱くらいですね。あと最後の【あとがきらしきもの】というものあるんだけど。
広山:はい。
宮原:ここには「そしてつかこうへいについて何かを書くというのは、もう本当にこれが最後であり、この先絶対にないということを、いまここに断言しておく。」と書いておりますね。
広山:これが、奨伍さんからのインタビュー依頼をお断りになった理由に繋がっているということですね
宮原:そうだと思います。本当に、ここに全て書き切ったぞ!という一冊なんだと思います。
広山:読ませて頂きます。
宮原:ぜひ、読んでみてください。皆さんも読んでみてください。
広山:本日はありがとうございました!
宮原:ありがとうございました!



