
紹介:宮原奨伍 聞き手:広山詞葉
宮原奨伍(以下、宮原):つかこうへいを読む旅、第5回目です。5ヶ月目に入りました。
広山詞葉(以下、広山):あっという間ですね。
宮原:そう考えると、月1ペースだと、あと4回くらいしか紹介できないんですよね。
広山:1月に1回だと、確かに。
宮原:それも僕らのやる気次第なんですけど(笑)
広山:でも、つかさんの本ってそんなにたくさんあるんですか?
宮原:実は、文庫本だけでも75冊も出てるんですよ。
広山:すごいですね。75冊…!
宮原:全部読むのは簡単じゃないかもしれないけど、1日1冊読めば、2ヶ月ちょっとで全部読めますから。
広山:でも、全部読みましたっていう人、きっといらっしゃるんでしょうね。もしそういう方がいたらDMしてください。
宮原:ゲストにお呼びしたいですね。
広山:我こそはという方、ぜひお話伺いたいです。
宮原:さて、今回紹介するのは『いつも心に太陽を/定本ヒモのはなし』です。
広山:これは小説ですか?
宮原:短編小説集になってます。「ロマンス」「惜別」「弟よ!」「見合い写真」「かけおち」「ポックリ・ソング」「ヒモのはなし」「断絶」などが収録されていて、最後に「ヒモのはなし」という戯曲も入ってます。
広山:こんなにたくさん入ってるんですね。
宮原:そうなんです。「ヒモのはなし」は戯曲ですが、それ以外はすべて小説。「ヒモのはなし」については、小説版と戯曲版の両方が存在していて、読み比べても楽しいかもしれませんね。
広山:たしか、奨伍さんは「ヒモのはなし」を、一人芝居でやられてましたよね?
宮原:そうですね。もともとは6人の登場人物がいる戯曲なんですけど、それを一人芝居用に再構成した脚本もあるんです。蓮見さんという方が、小説をもとに戯曲化した形ですね。
広山:どちらを読んでも楽しめそうですね。
宮原:この作品には、つか作品で有名な「ストリッパー物語」と通じるテーマがあって、ストリッパーとヒモの男たちが共同生活しているという設定なんです。10人くらいの“ヒモ”たちが一つの部屋で暮らしている。
広山:生々しいですね。
宮原:でも、単なるヒモの話ではないんですよ。中に“ヒモ道”という言葉が出てくるんです。柔道、剣道、茶道、書道のように、「ヒモにも“道”がある」って言い切る男が出てくるんです。
広山:それはつかさんならではの感覚ですね。
宮原:ヒモって、一般的には“弱者”として描かれがちですけど、ここでは逆に“最強”として描かれているようにも感じるんです。昭和という時代背景のなかで、女性に養ってもらう男に対して「情けない」とか「男がすたる」といった価値観があったと思うんですが、その価値観に抗うようなロマンがある。
広山:今だったらまた見え方も違ってきそうですね。夫婦の在り方も多様ですし。
宮原:そうですね。つかさんが書いた当時には、そういう男の生き方に対する厳しい視線があった。でも、そのなかにある美学を描こうとしてる。読んでいて「これはただのヒモの話じゃないな」と思わせるんですよね。
広山:ヒモを“道”にする感覚、すごく独特ですけど、どこか説得力がありますね。
宮原:つかさんの作品って、社会から見て“弱い”とされている存在を、独自の視点で肯定することが多いと思うんです。それが今回の短編集でも随所に出ていました。
広山:私は短編映画が好きなので、短編小説ってすごく合ってる気がします。1日1作品、気軽に読めて、深く入れるし、時代にも合ってる気がします。
宮原:1日1本読んでいけば、1か月で30作品くらい新しい物語に出会えますしね。
広山:「ロマンス」もその一つですよね。水泳選手の話でしたっけ?
宮原:そうです。オリンピック選手ではないけれど、水泳に打ち込む青年の話。同性への感情が描かれていて、当時としてはかなり踏み込んだテーマだったと思います。
広山:「いつも心に太陽を」にも、そういう人間関係の繊細な描写がありますよね。
宮原:そうですね。ただ、この短編集のタイトルにはなってますけど、「いつも心に太陽を」という小説は実は収録されてないんです。
広山:えっ、そうなんですか? 入ってると思ってました。
宮原:私たちが知ってる演劇の「いつも心に太陽を」は、「ロマンス」とはまた別作品で、それ自体はこの本には小説として収録されていないんです。
広山:じゃあ、タイトルだけが存在していて、中身にはないということなんですね。
宮原:そう。でも、「いつも心に太陽を」という作品自体は別に存在していて、戯曲として上演もされてます。
広山:短編小説にはなり得なかったってことなんですね。どっちが先に書かれたんでしょうね?「ロマンス」と「いつも心に太陽を」。
宮原:僕は知らないです。誰か知ってますか?(笑)
広山:それにしても、つかさんって小説も戯曲も書かれていて、両方のスタイルにまたがってますよね。
宮原:小説と戯曲って、明確に「何が違うか」って、僕はちゃんと習った記憶がないんですよね。
広山:私もないです。小説ってもっと描写が細かくて、文字から想像する部分が多い、というイメージはありますけど。
宮原:小説を経た脚本家ってやっぱり強いんだろうなと思う部分もあるけど、つかさんの場合、口立てで芝居を作る人でもあるから、一概には言えないところもある。
広山:今日まさに、「つかこうへいって誰ですか?」って聞かれたんですよ。ギャラリーを貸してくれてるルデコのオーナーさんに。44歳の男性の方で、今さら聞けなかったんだと思います。チラシも置いてもらってるし、私が毎回つかさんの話してるから。
宮原:その質問、むしろうれしいですね。
広山:私、「一時代、演劇ブームを作ったカリスマ演出家です」と答えたんですけど、演劇がスタートで合ってますよね?
宮原:合ってます。最初は詩人なんですけど、そこから演劇に入っていって、途中で演出を離れてた時期に小説を書いたりしてます。
広山:詩人か!そうでした。
宮原:読書が好きだったみたいで、子どもの頃から本に親しんでたみたいですね。
広山:なるほど。演劇だけじゃなくて、小説という表現も同じくらい大事にされてたんですね。
宮原:そう感じます。今回紹介した短編集でも、その幅広さがよく伝わってきますよ。
広山:今回も、深くて楽しい紹介をありがとうございました。
宮原:こちらこそ、ありがとうございました。また次回も、面白い作品を紹介します。



