#2「つかへい腹黒日記」(つかこうへい著)

紹介:広山詞葉 聞き手:宮原奨伍

宮原奨伍(以下、宮原):おはようございます。

広山詞葉(以下、広山):おはようございますですけど、見てる人はおはようございますじゃないかもしれないですね。

宮原:そうですね。笑

広山:はい

宮原:それではつかこうへいを読む旅の第二回は詞葉さんが紹介してくれます。

広山:よろしくお願いします。

宮原:よろしくお願いします。

広山:私が選んだのは「つかへい腹黒日記」です。これは1、2、3とある中の、1作目ですね。

宮原:はい。

広山:これは、つかさんの日記が書かれていて、一作目は、1981年の9月10日~1982年の1月19日までが書かれた、まさに「日記」ですね。

宮原:5カ月間の日記なんですね。

広山:ここの時期の何が面白いかというと、つかこうへいさんが直木賞を受賞されたのが1982年の、1月。

宮原:なるほど。じゃあ直木賞までの4、5ヶ月間が描かれてるんですね。

広山:ノミネートされて、その出版者との話とか、それがあれですよ。今や有名な見城徹さん(現・幻冬舎代表取締役社長)が、その時のつかさんの担当で、当時は角川だったんですね。

宮原:そうなんですね。

広山:見城さんとのやりとりだったり、受賞されてからのお話だったりとか、あとは『銀ちゃんのこと』の公演の初日のことだったりとかが書かれています。

宮原:これは一人称は僕なんですか?

広山:僕です。本当に、日記ですね。

宮原:そうなんですね。

広山:すごい短い日もあれば、長い日もあるんですけど、あのね、

宮原:はい。

広山:もう冒頭3行からめちゃくちゃ面白くて。やっぱりこの、つかさんの言葉の強さを日記でも感じます。

宮原:その冒頭3行っていうのはどういう始まり方なんですか?

広山:一九八一年九月十日。 この夏、部屋に閉じこもりっきりで書いた『銀ちゃんのこと』三百枚が出来あがる。各出版社に電話して、入札するから金もって来いと連絡をとる。やはり現金取引の角川書店、話が早い。 オレ担当の見城徹がアタッシュケースに金を詰め込んで一番乗りしてきた。

宮原:なるほど。

広山:なかなかこんなパワーを持った日記ないんじゃないですかね?やってることが、すでにパワフルですからね。

宮原:すごいなあ。

広山:すごいワクワクしたのは、ここには女たちが出てくるんですよ。

宮原:女たち?

広山:はい、まさに女たちがいっぱい出てくるんですよ。 “めかけ”みたいな言い方してますけど。金沢の毬恵、ススキノの百合子、ロスのユミとか。

宮原:うんうん。

広山:ユミに会いたくなったら、急遽航空券を取って、思い立ってロスに会いに行ったりするんですよ。

宮原:はい

広山:ススキノのスナックやってる百合子に会いたくなってススキノに行ったりするんですけど、でも言葉を交わさずに出て来て、そしたら百合子はそっと涙する。と書いてあるんですけど、

宮原:はい。

広山:でもどうやらそれは、解説を読むと嘘みたいで。 笑

宮原:あ、全部作り話ってことね。笑

広山:架空の女たちなんですって。

宮原:想像の中でね。なんかいいね、それはそれで。

広山:日記だよ?笑

宮原:書くことないから書いちゃったのかな?

広山:面白いよね。でもそれでいいもんね。読み物だから、別に。

宮原:確かにね。そうですね。まず、この「腹黒日記」っていうのが、またね、いいですよね。

広山:ワードがね、いいですよね。でも確かに腹黒なんですよ、つかさんってわざと、口を悪く描くじゃないですか。

宮原:そうですね。

広山:ちなみにわたし、戯曲以外のつかさん作品を初めて読んだんですけど、そういう意味では、これが初めてでよかったなと思いました。

宮原:はははは

広山:なんかね、当時1800円で『銀ちゃんのこと』が上演されていたんですけど、そこで「いいか、客を人間と思うな。1800円が歩いてくると思え。」って書いてあるの。

宮原:なんだそれ笑

広山:腹黒でしょ。

宮原:腹黒だねー。 なかなかねお客さんに向かって言えないことだしね。

広山:そうですね。

宮原:じゃあこの腹黒日記っていうのは、つかこうへいさんの普段の生活だとか、使っていた言葉とか口調とか、そのまま書かれているんですか?

広山:そのまま書かれているし、つかさんの美学を感じます。

宮原:どんな美学?

広山:なんか俳優のことを、すごい貶してるんだけど、俳優が風邪ひいたらマンションまで行って看病してやって、とか、ごちそうしてやって、とか。 でも、ごちそうしてやったけど、途中から腹立ってきて、誰が何本焼き鳥の串食べたか数えて、風間はどうだ、平田はどうだ、みたいなことが書いてあるんですね。

宮原:面白そう。

広山:面白いですよ。あっという間に読めました。

宮原:他人の日記を読むっていう観点でも面白いかもしれないですね。

広山:ただ、おそらく、読まれる前提ではやっぱり書いてるんですよね。 引き出しの中に仕舞っておく、いわゆる私たちが小学生の時につけてた見られたら恥ずかしいやつとは、やっぱりちょっと違う、ちゃんとエンターテインメントとしての日記になっていると私は感じました。

宮原:なるほどなあ。じゃあ、その『銀ちゃんのこと』のことも書かれているってことですけど、その時代の雰囲気もすごく読み取れるっていう感じですか?

広山:そうですね。 まさにその紀伊國屋ホールで観る演劇のチケットが1800円とかも時代を感じるし、あと蒲田行進曲の小説を出されたのもその時期で、紀伊國屋ホールの受付のところでサイン会をした話だったりとか、当時のつかさんのイケイケの時代が書いてあります。

宮原:その時代の、そういう日記を読んで、詞葉さんはどんなことを感じたんですか?

広山:やっぱりかっこいいっていうのが私の感想でした。

宮原:かっこいい。うん。

広山:愛があるから。腹黒なこといっぱい書いてあるし口も悪いんだけど、それがきっと照れ隠しで愛の塊の方なんだな、と。 でもそれをまっすぐ暑苦しい感じには書かなくて、読み物として面白くしてあるのがすごいなぁと思いました。あっという間に読んじゃいましたし。

宮原:そうなんですね。

広山:あとすごい好きだった言葉が。

宮原:はい。

広山:あ、これも本当かどうか分かんないですよ。
宮原:もはやね。 笑

広山:そうそう、どこからどこまでが本当で、どこからが創作なのかは分かんないんですけども、エンタメとして読む話として、蒲田行進曲の小説を出して、そのサイン会をしてる時に「これ、私のことを本にしましたよね!」って女の人が突っかかりに来たんですって、つかさんに。

宮原:えー

広山:馬乗りになって首を絞めてきやがったって。 それをつかさんは、さらに馬乗りになって首を絞めてやったんだって。

宮原:ええ!

広山:で、「出版社の担当者や紀伊国屋書店の係の人たちが慌てて飛んできて、俺をその女から剥がそうとするが、俺はそいつらを手で払いのけ、さらにぐいぐい女の首を絞めたよ。 よだれをたらたら流し、ロンパリになった俺の目を見て、周りの連中はつかさんが狂った!つかさんが狂った!と躍起になって、俺を取り押さえた。」っていう話があるんですけど、その後、狂った女の方が逆にしらけちゃって、正気に戻って帰って行った。とあって。

宮原:ははははっ

広山:その後の1行が「ざまあみろってんだ。 お前らとは狂い方の格が違うんだよ。」って!

宮原:うん。

広山:かっこいい!

宮原:なるほどね。笑 え、狂いたい人なんですか?詞葉さんは。

広山:そうかも。笑 いやかっこいいなぁって。私ここが一番好きでした。

宮原:そっか。なぜこんなにもつかこうへいさんやその作品に魅了されるのかどうかっていうのを、本企画の中で探っていきたいって言ってたじゃないですか。

広山:はい。

宮原:ここにちょっと、ヒントがあるのかもしれないですね。

広山:そうですね。今まだ旅を始めてまだ数ヶ月の序盤ですけど、今のところ私が感じているのは、愛とユーモアがある人だから、そこに惹かれているって感じがしてますね。

宮原:なるほど。

広山:わたし『つかへい腹黒日記』を読んだところまでの私の旅の途中の感想です。

宮原:ありがとうございます。僕も読んでみますね。

広山:ぜひ。読んでみてください。あっという間に読めます。

宮原:第2回のつかこうへいを読む旅『つかへい腹黒日記』でした。

広山:ありがとうございました!

宮原:ありがとうございました!